醤油づくりは体力勝負

醤油の材料は、麦、大豆、塩、そしてこうじ菌、たったそれだけのシンプルな食材でですが、あの香ばしくまっ黒に色づいた醤油ができ上がります。
醤油も味噌も麹づくりが大切で、一番に麹づくりから始まります。わたしたちの蔵では、1回の麹づくりを4日かけて行います。手順を簡単に申しますと、小麦を釜で炒って粉砕し、蒸した大豆と醤油の菌をあわせて室(むろ)で寝かせます。翌朝には発酵による熱でどんどん温度が上がるので、醤油の麹にとって最適な温度40℃を保つために、手で薄くのばしながらかき混ぜる作業に入ります。これを「手入れ」と言いますが、まさに「麹のお手入れ」という感覚で、丁寧にしっかりと混ぜます。

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先祖が残した杉樽から生まれる味

そうして出来あがった麹に塩水を加えて「もろみ」をつくり、人の身長を越える高さの大きな杉樽に入れます。そこから1年以上もかけてゆっくりと熟成させていきます。ときどき、「かい入れ」といって樽の中をかくはんするのですが、これはさすがに力がいるので4代目の濱晃博の仕事です。蔵にある20本ほどの杉樽のなかには、1年目の若いもろみを入れた樽があれば、3年以上経ったものもあります。中のもろみを見ると、若いものほど色が薄くてさらさらしていて、熟成年数が多くなるほど濃く固まってきます。味の個性も樽ごとに違うので、つくづく「醤油は生き物だ」と感じます。
わたしたちのような古い蔵には、長い年月を経て醤油の発酵を助ける微生物が棲みついています。杉樽を覆うまっ白な微生物が、醤油のうま味を強くするという大事な役目を果たしてくれています。この蔵に棲みつく微生物は、醤油づくりにおいてかけがえのないもの。昔ながらの製法も、この蔵も、120年という長い歴史のなかで先祖が大切に残してくれた宝物だと肝に銘じて、正直に醤油をつくり続けています。

先祖が残した杉樽から生まれる味

本物の味を手軽に味わって欲しい

樽の中で1年かけて熟成したもろみに、熱消毒の「火入れ」をしてろ過したものが、わたしどもの基本の醤油、「秘蔵しょうゆ」です。蓋を開けたとたんに香ばしくもつーんとした香りが漂いますが、これが私どもの蔵の香りです。まろやかな味わいで、野菜のおひたしや、煮物など、何にでも合います。
この「秘蔵しょうゆ」に、徳島県の名産すだちや天然だしを合わせたものが、「すだち醤油」で、徳島マルシェでも人気を集めています。そのほか「だし醤油」や「ぽんず」などもすべて「秘蔵しょうゆ」に産地や天然物などこだわり素材を合わせています。本物には本物、といいましょうか、わたしたちの醤油に合わせる素材を探すと必然的にそうなるのです。そのぶん、1つの商品を作るのにとても手間がかかります。天然だし1つにしても、私たちでカツオ節やサバ節を煮てだしをとります。けれど、「私たちが手間をかけたぶん、お客さまは手間をかけずに本物の味が楽しる」と思えばやる気が湧いてきて、次々にアイデアが浮かびます。
4代目 濱 晃博・眞理子

物の味を手軽に味わって欲しい